月夜に見る夢 |
その穴蔵を満たす異臭に、通りがかる者がいれば眉をひそめたことだろう。 満点の星、煌々と照り輝く月、そよぐ風に乗る草の香りは心地よく、清らな花はゆらりとつぼみを開かせる。 虫の羽音さえ小さな音楽となり、巣へと帰った鳥たちの子守歌になるようなこの夜を「美しい」と、誰もが感じるこの時に。 翠髪の麗しい人は、『陵辱』と言う名の一方的な宴で、主役の座を与えられていた。 縛り上げられた腕が軋む痛みに、裏葉は重たい瞼を開きながら、頭に響く鈍痛の原因を思い出していた。 裏葉が覚えている最後の場所は、屋敷の中で自分に宛われた個室へと向かう渡り廊下だった。 元はと言えば、神奈の言葉遣いがひどいことが発端だった。 「神奈さま」 「うむ、何か用かの」 しらっと返された言葉の前に、怒りのあまり裏葉の方が震えた。 「何か用かの、ではございません。いつになったらこの裏葉めの言葉をお聞き入れくださるんですかっ」 「余はいつも聞いておるではないか、心外なことを言うでないっ」 「では、その御言葉使いを直していただきたいという願いは、一体どのような形でお聞き入れくださっていらっしゃるんですか」 「………」 「…お聞き入れくださっていらっしゃらないですよね」 ついと顔を余所に向けると、神奈は口元を袖で隠して考え込むような表情を作った。 「…ふむ、確かに言われてはおるが直しておらぬ。だが、急に直せと言われてもそうそう直る物ではないであろ」 「せめて直そうとする努力を見せていただければ、これほど言いません」 もう一度、ふむと呟いて、神奈は裏葉と向き合うと、さも妙案が閃いたとばかりに手を打った。 「ここはこう、裏葉の言うような言葉使いの手本になる物を持ってきて貰うというのはどうであろう」 「それは、暇を出すと仰っている様に聞こえますが…」 「いや、そういうことではないぞ。もうすぐ、買い出しの者が都へむかうであろ。一緒に行って裏葉も都を楽しんで来れば良かろうと思ったが、嫌なら無理は言わぬ」 神奈の「都」の一言に、裏葉の脳裏をきらびやかな都への思いがよぎった。 新しい着物、優雅な遊び、美味しい食事に新しい歌集…。それらを思い起こすだけで裏葉の目は輝きを増し、口元がゆるんでいく。 「ここしばらく裏葉もよく働いてくれた、その褒美の代わりになればと思ったのだが」 「ううう、裏葉は嬉しゅうございます。それほどまでにこの身を思っていただけているとは…」 「うむ、余も嬉しいぞ」 「ですが神奈さま」 上手くごまかせたと袖の下で舌を出していた神奈に、笑顔のままで裏葉が声をかけた。 「書を買ってきたときには、必ずやそのお言葉使いを直していただきますね」 裏葉の満面の笑顔とは裏腹な強い口調に、神奈はがっくりと肩を落とした。 そんなやりとりがあり、他の女官達数人と少しばかりの護衛を供に山奥の社を出たのだった。 都での収穫は想像以上に多く、気に入った衣を入れたつづらは当初の予定より遙かに数を増し、そのほとんどが神奈の物であることを裏葉は何より満足していた。 書物もよい歌集が手に入り、目的を十二分に達成した心地よい疲労感の元、帰る道程は往路よりも長く感じられた。 「色々買われたのですね、裏葉さま」 馬に引かせる荷台の上の、高くつまれたつづらがやはり目立つらしく、女官が裏葉に声をかけてきた。 「ええ、これで神奈さまが女性として磨かれれば、わたくしめは喜ばしい限りなのですが」 「そ、それはいささかお手間がかかるかと」 「そう思われますか、やはり」 お互い苦笑すると、女官は道の先にある山を眺めた。 「この先の山にある寺では、裏手の川が温泉になっていますよ」 その言葉に、裏葉も山の麓へと視線を向けた。 「出家してしまったやんごとない身分の方がいらっしゃることも多いそうで、食事も美味しゅうございますよ」 「あらあら、日も傾いたし、山を越えるよりは、そちらに寄らせていただいた方が助かりそうでございますね」 裏葉は言葉の響きに、喜びを隠そうともしていない。温泉も食事も魅力的だったし、社に戻るまでの退屈な道程を一夜の宿を借りた思い出話で過ごすこともまた、興味深かった。 その寺は社と都を行き来するときはよく立ち寄るらしく、門戸を快く開いて迎えてくれた。 中に入って裏葉は驚いた。 自然の樹木を残して整えた庭も、本堂以外の部屋のしつらえも、ただの山奥の寺と言うよりも誰か浮き世を悲しんで離れた品のある人物の隠れ屋敷を思わせるほど整えられていたからだ。 実際、跡目争いから逃れるために出家した公家の者もその寺に居て、剃り跡が陽に焼けて肌の色と変わらなくなっているところに、俗世を離れてからの年月を伺わせていた。 「思ったよりも良い場所ですわね」 「でしょう? きっと気に入っていただけると思ってましたわ」 「神奈様には内緒ですが、実は都の帰りは毎回ここへ寄らせていただいているんですよ」 「食事も美味しゅうございますよ」 女官達から聞いたとおり食事も絶品で、山菜を上手に使った複数の料理を飽きさせず最後まで平らげさせる調理人の手腕は素晴らしいものだった。 「恵みである食べ物を、美味しく食べられるようにすることもまた、仏の道でございます」 感嘆の言葉に微笑んだ中年の僧がそう答えた事に、裏葉は仏の教えの深さに驚いた。 食事も済んで日が暮れて、部屋を整えるまでにどうぞと言われるままに向かった川は確かに温泉が湧き、流れる水と相まって程良い湯加減だった。 水浴びならまだしも、湯浴みなどそうできるものではなく、女官達と談笑しながらじっくりと温泉を堪能した。 「良いものでございますね、本当に」 「わたくしも、ここへ寄るのが楽しみで」 女官達は皆ゆったりと湯浴みを楽しんだ。 最初は人が来ることを警戒していた裏葉も、組み上げれば腕を伝って括れた脇腹を流れ、太股からまた川の流れへと戻る湯の感触を楽しむために、湯から立ち上がった。 「まぁ、羨ましいほど張りのある肌ですこと」 「本当に。しみも傷もない」 普段から人前で肌を見せていないので、賞賛の言葉に上手な言葉を返せず、裏葉は苦笑いをして空を見上げた。 上弦の月が藍色の空で白く光を放ち、どこからか花の香りも漂って、現実から切り離されたような虚ろさを感じさせた。 この一瞬を最大限に感じられるように、裏葉はゆっくり瞼を閉じた。 「ここの屋敷の裏にある廃坑では、昔たくさんの人が死んだとか」 「宛われる部屋の中でも特に廃坑に近い部屋では、浮かばれぬ魂が迷い出ることもあるとか」 湯上がりの身体を拭いていると、何度かこの寺へ訪れたことのある者がそんなことを言い出した。 「裏葉さま、試しにその部屋へ泊まってみてはいかがでしょうか」 「あらあらまぁまぁ」 「以前から、こちらにはじめてやっかいになる人はそこへ泊まると、私たちの間では決めて居るんですよ」 「あらあらまぁまぁ」 話は発展し、裏葉は一緒に来ていた新入りの女官と共にその部屋へ泊まることになってしまっていた。 先輩から後輩への、ささやかな悪戯だとは判っていたし、一緒に泊まる女官が怯えていたので、その話を深く考えずに裏葉は承諾した。 「大丈夫でしょうか…わたくし、心細くて…」 「もし迷う魂があったのだとしても、とっくに仏の元へと向かわれておりますよ」 その女官は今にも倒れそうなほど青ざめていたので、慰めながら二人きりで渡り廊下を奥へと歩いて…。 そばの藪ががさりと音を立てたような気もする、廊下の床板がぎしりと軋んだような気もする、だがその後のことは一切裏葉の記憶には残らなかった。 そこまでを思い出す間に、裏葉の意識は混沌からようやく現世の身体へ戻ってきていた。 同時に裏葉は、身体の異常をはっきりと自覚した。 …いや、正しくは身体の置かれ方の異常さを、と言った方が良いだろう。 どこか固い地面に突っ伏されているらしく顔が痛く、肌が触れる部分には綿の感触が伝わってくる。 それらのことから自分がどこか布を敷いた固い床の上に、無造作に置かれているのだと判断した。 目を開いても何も見えない。感触から目隠しをされているのだろうとは解る。口の中には布らしきものが詰め込まれ、はき出せないところから猿ぐつわをされているのだと言うことも判った。 軋む腕の感触から、後ろ手に両腕を縛られている事も、まさぐっても結び目が見つからないことから自分で解くことも難しい事も理解した。 だがそれよりも恐ろしさを感じたのは、記憶の最後では確かに身につけていたはずの衣の感触がない事だった。 ここは一体どこなのか…。自分は一体どうなったのか…。 裏葉の頭の中をそんな疑問がグルグルと巡ったが、その答は思いの外に早く出ることとなった。 薄暗い洞穴の中にしかし、しっかりと梁を組んだその場所は、寺の裏手の廃坑だ。 入口からずっと奥へ入ったところに作られたやや大きめのくぼみは、本来鉱山として賑わっていたときに休憩用の場所として作られた。 藁で編んだ敷物を何枚も重ね、その上に布をまた幾重にも敷いて、岩壁に穿った穴に火を灯し「来客用」の間と、この寺ではされているのだ。 貴賓として迎えられたのは裏葉と女官、迎える側は寺に住まう僧達。共に、一糸まとわぬ姿だ。 裏葉にとって幸いだったことは、目を塞がれたためにまわりの状況がわからないことだろう。 恐怖は増すかも知れないが、剃髪の中年・青年男性の腰に猛るものを目の当たりにするよりは、遙かにましだろう。 「気を失ってるくせに、そそる尻のあげ方をしてるぜ…。こいつは天然の淫乱なんじゃないか」 その中の若い方は、裏葉の突っ伏されて丸出しになっている柔らかそうな臀部を見ながら、自分の最も男性らしい部分を擦り上げて先端を透明な汁でぬめらせていた。その男根は、細身の身体に対してごつごつとして長い。 ぬめって滑りが良くなった先端を、節くれだった親指を押しつけて円を描くように擦る。 「楽しんで貰えるように、よく準備をしておかないとな。なんせ今回の主賓なんだしな」 薄暗い室の中で少ない光を照り返して輝く白い肌を餌に、自分の中の快楽を引き出しながら呟く。 自分の反り返った「それ」で柔肌を犯す瞬間を想像しながら、更にしごき続け…その最中に裏葉は意識を戻してしまったのだ。 「ほぅ、気が付いたようじゃ。こわばった身体をほぐしてさしあげねばな。 まろはまだこちらを楽しむ故、そちらは任せるぞ」 裏葉の手指が空を掻くのを見て、別の僧が一物をしごき続ける男に声をかけた。 そちらの僧は、裏葉と共につれてきた女官の華奢な腰を抱え上げ、赤く腫れ上がり白濁とした液を垂れ流している蜜壷に自分自身を力強く穿っていた。 「っ…っんっ…」 目隠しはされていないものの、裏葉と同じように猿ぐつわをされ腕を縛られ、抵抗も叫びをあげることも出来ない状態で女官は嬲り続けられていた。 「小さいながらどうして、なかなか良いものではないか。まだまだ味わわせてもらうぞ」 「んんっ」 女官の流した涙は幾筋にもなり、それを舌先でなめ回され顔を汚された。腰まで伸びた髪が無造作に布の上に広がり、黒い模様を描いていた。 薄い胸には強く吸われてついた跡が赤い斑点になり、かき回され続けた女陰はすでに何を入れられても抵抗できなくなっていた。きつく閉じた瞳を覆う瞼も赤く腫れてしまった。 「ほっほ、そろそろ身の委ね方も判ってきた頃ではないか、中の方がこなれてきておるぞ」 裏葉に比べれば平坦な顔立ちだが、薄紅に染まった顔はほんのりと色香を漂わせ、嬲る側にそれなりの満足感を与える。言い返せない女官の耳元でわざと淫猥な言葉を囁き、否定し抵抗しようとする女官を押さえつけ、更に自分の中の欲求を満たす。 充分に高まった怒張から手を離して、言われるままに男は裏葉に近寄った。 「さぁ、立って貰おう。あっちの女官よりも手厚くもてなさせて貰うぞ」 空気の微妙な流れで自分のそばに誰かが立ったことを感じるが、相手が自分にとって好意的なことをする筈がないと、裏葉は悟っていた。裏葉にとって、なすがままにされる事が、今一番賢い行動だということも。 …たとえ、自分に触れる手がどれほど汚(けが)れているとしても。 「…失礼する」 男は無造作に裏葉の腕を縛っている布の、結び目を掴みあげた。 「っっんっ」 叫びが呻きとしてしか発せられないことが、裏葉に更に苦痛を感じさせた。 軋む腕の痛みに、持ち上げられる高さに合わせて立ち上がろうとするも、膝をついて身体を支える前に腕の方が引き上げられてしまう。 足を滑らせ、引きちぎられるような痛みに顔を歪ませるうちに、腕を梁から下げた縄に縛って固定し終わった男が、空いた手で裏葉の腰を抱え上げて立たせた。 腕を後ろに引き上げられているため、前屈みになる。もちろん、その分下半身は後ろへ突き出される。 「良い格好だな、身体をよじるほどなまめかしく見える」 前触れもなく男は、自分の手のぬめりを裏葉の括れた脇腹へ擦り付けた。 「っぁんっ」 冷たい感触に身をよじるが、腕が拉いであまり動けない。 「判るか、今塗ったものが何か。俺の一物からでた液だ。 今のお前は、俺の液をまとってきらきら光ってる…すごく淫猥にな」 男の言葉に、裏葉はかっと体中が熱くなるのを感じた。 屈辱と羞恥に、本当に体が震えるのだと体感した瞬間だった。 「今度は身体の外だけじゃなく、中の方にも塗ってやらないとなぁ」 続けて臀部を撫で回す男の言葉に、裏葉は身を固くした。 その動きに、男は下卑た笑みを浮かべた。 「感じるのか、それとももどかしいのか、好きなところを触ってやるぞ」 撫でながら揉みしだくその指は、徐々に秘部へと近付いていく。 「っ、っ…んっ」 裏葉が身をよじるも、大きな両手に押さえつけられ、男の弄ぶままにされてしまう。 「あんまり動くと、腕が使えなくなるぞ。かといって無抵抗も面白くないからな、暴れるのも程々にしておけよ」 「んんっ」 言われる通りに出来るはずもなく、裏葉は身をよじり続ける。 「物わかりの悪いやつだな」 男はおもむろに立ち上がり、後ろから抱きつくように裏葉の豊かな乳房を握りしめた。 「んっっ」 裏葉は逃げるように身体を伸ばそうとしたが、男の身体がぴたりと張りついてより強く乳房をもみしだいた。 陶芸家にこねられる粘土のように、裏葉の柔らかな胸は男の大きな手の平でこねられ、はみ出す。 「っ、んっ」 「あんまり暴れると、このまま乳房を握りつぶすぞ」 言葉と共に淡い桜色の突起を両方ともねじり上げる。 「っんんっっ」 裏葉の目隠しの中では、目尻に雫が込み上げていた。 「これ、まろの楽しみをとるでないぞ」 「…仰せのままに」 胸から手を離すと、男は前にまわり裏葉の胸の下へと滑り込んだ。 豊かな両乳房に手を添え顔を挟み、そのままふくらみをもみしだく。 先程までの強い攻め方と違い、ゆっくりと胸を揺さぶり、谷間を舌先でなめる。 その差に、裏葉は小さく息をつく。 「…っ…ん…」 裏葉の声が先程より小さいことに気が付いてか、男は動作に乳首を攻める親指の動きを追加した。 桜色の突起はすでに固くなり、その尖った先を親指で押し回す。時折輪の方も軽く撫で、思い出したように突起をひっかく。 「っん……」 舌も谷間だけではなく徐々に先端の方へと這わせて、じっとりと汗ばみはじめた肌に、唾液の道を付ける。 慣れない感触は最初こそおぞましく恐ろしいものだったが、男の愛撫はそれ以外の感情を裏葉の無垢な肢体に教えることに成功していた。 時折身体が揺れ、股間を閉じるように足が動くが、逆に媚態をさらし誘惑している様にも見えた。 肢体が跳ねるのと同時に揺れる乳房は、男の目を悦ばせていた。 すでに快楽に身を委ねてしまった女官は、貫かれながらも薄く目を開いた。 身体の中を限界まで進入してくる異物の衝撃は、柔らかくとろけた肉ヒダが包み込んでいる。 壁を擦り上げる摩擦による痛みは、溢れて男の腰まで濡らす愛液によって緩和され、痛みも程良い快楽となって身体を痺れさせていた。 そうなってみて、はじめて自分や自分を貫く男達とは別の存在に気を向けるゆとりが生まれた。 薄明かりの中でもそれと判る桜色に上気した肌に、玉のような汗が伝う。その汗が、揺れる身体に不規則な道を付ける。 男の舌が這ってつけられた唾液の道、白い内股を伝う雫の道、そこへ加わる汗の滴が裏葉の体のそこかしこできらりと輝く。 社殿ではいつも品良く、自由奔放すぎる主人をなだめすかし、必要と見れば叱り、その上でなお他の女官達との関係もこなす裏葉は、同性の目から見ても素敵だった。 女官もその中の一人として、裏葉に憧れを抱いていた。 今、憧れの人が縛られ、見知らぬ男に嬲られている。その事実は、女官を興奮させ、身体に穿たれる男根によってもたらされる快楽を増幅させた。 「ふぅっ、具合が良くなったな。中がうねって吸い付いてきよる。向こうの女に思うところでもあったか」 覆い被さる形で貫いていた男は、そのまま女官の華奢な身体を持ち上げて体制を後ろ向きに変え、猿ぐつわと腕を縛る布を外した。 「四つ這いになれば、もっと見やすくなる。腰を上げるが良い」 男の言葉のままに女官は腰を上げる。白濁した液が溢れる秘部の合わせ目を、黒みを帯びた肉棒がかき分ける。 「はぁんっ」 擦れる刺激に上げた声は艶を帯び、男をそそる響きがあった。 「そちらの目隠しも取ってよいぞ」 その言葉に裏葉に覆い被さっている男は頷いた。が、すぐには実行せず、くびれのはっきりした腰を揉み、脇腹から乳房へと手の平を滑らせ、弾力を愉しむ。 背中に流れる黒髪に顔を埋め、その幾筋かを舐めあげる。 「さて、自分がどうなってるかを確かめて貰おうか」 軟体の生物がからみついてくるように、男は裏葉のきめの細かい肌に必要以上に身体をつけ、耳元に息をかけながら囁く。 耳にかかる息はこそばゆいのに、裏葉の身体をその刺激が痺れとなって突き抜ける。 痺れと腕の痛みと、ぬめりを帯びた液体が皮膚を伝う感触とで、裏葉の肉体的な神経は麻痺をおこしかけていた。 しかし、男が何度も肢体を撫でながらようやく解いた目隠しの下にあった眼差しは、未だ理性の光を残していた。 上気して赤く染まった頬は、息苦しさのためだけではないのに。 「あはぁっんっ、裏葉さまぁ…んっ」 女官の声に、裏葉は頭を巡らした。 巡らせて最初に見たのは、自分に貼り付く男の顔だった。 「っん」 それほど間近に男の顔があることなど、裏葉に初めてのことだった。自分の総てに覆い被さられるような恐怖感に、裏葉はもう一度藻掻いた。 「逃げることはないだろう、全部を知ってる男を相手に」 男の言葉に、裏葉の身がすくんだ。動きが止まったのを知って、男はほくそ笑むと更に言葉を続ける。 「そう、全部を知ってるんだぞ、お前の身体の感触も…まだ未通女だって事もな」 男の言葉に一番驚いたのは、女官だった。 女官を貫いている男は薄く下卑た笑いを口元に浮かべただけだが、女官は裏葉の方に顔を向けたまま目を見開いた。 自分でさえ、屋敷に出入りしていた商人と、または警備の男と床を共にしたことがあった。 憧れの対象である裏葉なら、そんなことは自分よりも熟練しているのだと、女官は思い続けていた。 今までの日々を振り返っても、そういった話題に平然と付き合っていた裏葉が、まだ経験のないことは意外だった。 同時に、女官の心の奥に優越感が首をもたげてきた。その優越感は、自分が裏葉に快楽を教える側になりたいという欲求を伴い、じわじわと膨らんだ。 「はっ、締め付けが良くなりおった。どうやらそっちの女にこちらも反応するようじゃな。口も自由にしてやるが良いぞ」 女官への抽送に緩急を付けながら、また男は命令をする。 それを受けて、裏葉の轡は手早く取られた。 「はぁっ…っ」 ようやく裏葉は、大きく息をつくことが出来た。それだけでも開放感を味わえ、今までの窮屈さが取れたように錯覚する。 男は身体から離れ、裏葉の長い髪を片側に流し、女官ともう一人の僧に見えるようにする。 「見て貰えるようにしてやったぞ。嬉しいだろう」 振り向いた裏葉の目に映ったのは、桜色に身体を染めて潤んだ瞳でこちらを見る女官と、その女官にのしかかりながらこちらを下卑た笑いを浮かべながら見つめる中年の僧だった。 中年の僧にも、自分のそばに立つ若い僧にも、裏葉は見覚えがあった。 中年の方は、公家でありながら出家した人物として紹介された男だったし、若い方は料理を出した僧だった。 「なぜこのようなことを、仏の道を目指す方がっ」 「仏の道には邪道と呼ばれる物もあり、男女のまぐわいで仏の境地を目指すという道もある。これも修行って事だ」 若い僧がそう言うと、中年の方が続ける。 「それにまろは、好きで仏門へ帰依したわけではないしの。顔の良い小坊主も悪くはないが、やはり一番良いのは女人の膣じゃな。しかも、初物よりは慣れている方がいい。こいつのようにな。 それに初物は痛がるばかりで気がそがれる」 「あはっ、うぅんっ…ん」 獣のような交わりに終止符を打つべく、男は腰の動きを早くした。女官の足を両腕にかけて限界まで開かせ、のしかかることで自分自身をより深く打ち込む。 湿った音と腰がぶつかり合う音が響き、女官のあえぐ声は一際高くなった。女官のその姿には先程までの痛々しさはなく、歓交を味わう女性としての色気があった。 細い身体にいくつもの痣が出来ていても、自分の腰の動きを止めようとしない。貫く肉棒の動きにあわせ、自分から陰部を突き出している。 その光景を目の当たりにして、裏葉は自分が震えるのを抑えられなかった。 「こんな……」 人の話や想像で、ある程度は判っているつもりだった。しかし、実際現場を見るのとはまるで違う。 まして肉欲を貪るような激しい行為に、裏葉は言葉を無くした。 「俺も主と共に出家したのだが、やはり女の肌は忘れられなくてな。この寺の住人も全員そうだったらしくて、この方法で仏の道を目指すことを提案したらすぐに受け入れられたよ。今頃は他の女官達とやっている頃だろう。 あの女達も、そうされると知ってここに泊まったんだろうしな」 男の言葉で、裏葉は総てが判った。今回のこれは、洗礼なのだと。 「さぁ、味わうがよいっ」 「やぁっ…んんっっ…ああああっ」 一際高い声を上げて、女官と男の動きが止まった。時折ビクリと動くことを繰り返した後、男は自分の一物を女官の中から引き抜いた。抜けたことにより開いた空洞から、白くどろりとした液体が溢れて敷かれている布を濡らした。 「向こうは終わったらしいな…」 裏葉の股間を人差し指でなぞって、男は驚いた。 なぞるつもりだった指が、陰唇にくわえられるように引き込まれた。 良く見ると、裏葉の女の部分は開き、大量の愛液を分泌していた。 そのまま指を動かすと、くちゃりぬちゅりと湿った音が立つ。 「っ、そんなこと…なさらないでくださいまし…っあっ」 女官の交合を見て、裏葉は言いしれぬ高揚感を感じていた。縛られ、自由を奪われ、意に添わぬ行為を強要させられようとしているのに。 「さてと、まろの汚れた物を、何で綺麗にするかだが」 「はい、やはり大事な物は、丁寧に拭き取らないと後々に困ることになりますゆえ」 男は言いながら裏葉の頭を押し下げた。 「この高さでいかがでしょうか」 「うむ、良いようじゃ」 公家であった中年の男は、がっしりとした身体の下にあるまだ萎えていない物をそのままに、裏葉の顔の前に立った。 まだ濡れたままの肉棒から漂う独特の匂いが、裏葉の鼻をつく。が、顔を背けようとしても抑えられて動かせない。 その鼻先へ、男根が突き出された。 黒くてらてらと光り、傘の大きなそれに一瞬見入ったが、すぐさま裏葉は固く目を閉じた。 「さぁ、どうすればいいのか判るだろう。やらなければ…」 若い方が裏葉の菊座に指を押し当てた。 「こちらをいじらせて貰う」 指に力が入る。 「あうっっ」 「お止めくださいっ、わたくしがいたしますからっ」 裏葉の叫びに、女官がかすれる声を振り絞った。 今裏葉を助けることが出来るのは自分だけだ…。そう思った刹那、女官はそう口にしていた。 その様に、もちろん男はふたりともいやらしく笑い、したり顔で両者を交互に見た。 「そうかそうか、ならそちらに頼もうか。だが、片方だけがすべてを引き受けるのでは公平ではないな」 「ええ、この場合は…」 若い男が女官に近寄り中年の腰に抱きつかせ、腰を持ち上げて、まだ精液を溢れさせている秘部を裏葉の前に押し出す。 「身代わりをしてくれる相手を綺麗にしてやるくらいはしないと、申し訳ないよな」 開いた裏葉の目に、ひくひくと小刻みに蠢きながら白くどろりとした液をこぼれさせる花びらが写った。 充血して薄紅に染まったそこから、男の物とは別の匂いも漂っていた。 淫猥、この言葉がしっくりくると、裏葉は思った。 「さ、まろの気が変わらぬうちにせぬと、どうなるか判らぬぞ」 中年の言葉に、女官はおずおずとその股間に顔を寄せた。 両手は身体を支えるのに使っているので、口だけで物を寄せてくわえ、舌で擦る。 「おおぅ……良い心地じゃ」 快楽に中年が腰を引くと、それにあわせて女官が顔を前に出す。 男根は根本までくわえられ、口腔の中で念入りになめ回される。 苦みと独特の匂いを飲み込むように、女官は一物ごと吸い込む。その感触がまた、男に強い快楽を与える。 裏葉はまだ菊座に宛われている指に怯えながら、渋々と女官の肉壷の入口に舌を這わせた。小さな桜色の舌が、真っ白い液をすくうと、その苦さに引っ込む。 「ちゃんと奥まで舐めるんだ」 指が菊座に押し込まれそうになり、慌ててもう一度、今度はより深く舌を伸ばす。 裏葉の舌先に押され、陰唇は自在に形を変えた。 「んぅぐっ…」 男のものをくわえたまま女官が呻き、その舌の動きに男根が勢いを取り戻す。 行為が繰り返され、若い男の指も菊座から花芯へと移動し、裏葉の意識がゆったりと混濁していった。 後輩に当たる女官の、男と交わったばかりの秘所を舌で嬲り、自分のものも他の男に弄ばれる。背徳的な行為が逆に非現実さを感じさせ、これは夢なのではないかと錯覚させる。 その錯覚と、身体の奥から沸き上がる快楽の波に、裏葉が身を任せようと思うまでにさほど時間はかからなかった。 夢なのだ、これは。 …そう思うようになると、裏葉の股間からは今まで以上に蜜液が溢れ、内股を伝った。 「その気になってきたようですよ、いかが致しましょう」 内股の蜜を舐めながら、若い方が中年に問いかけた。 「うむ……まろはその小さい口を使いたいのぅ」 「では、この身体に男を覚えさせるのは私めが」 「いやぁ…っ」 男の愛撫にとろけながらも、裏葉は拒絶の言葉を口にした。 「わがままを。しかし、血で自分の物が汚れるのもあまり好ましくないな」 「あはぁっ…ん…それなら、どうかわたくしに…」 潤んだ眼差しを若い男に向けて、女官は吐息交じりに申し出た。 憧れの人物に自分の汚れた秘所を舐めあげられて、女官の中は痛いほど疼いていたのだ。 「では、そう計らうがよい」 中年の言葉に、もう片方の男は女官を再び持ち上げ、裏葉の尻に縋らせた。 「これなら全員が気持ちよくなれるだろう」 女官は目の前にある裏葉の綺麗な二枚貝に唇をつけた。 「ああっ、その様なことをなさってはいけません…」 「いいえ、良いのですよ…裏葉さま…。今は気を楽に、どうぞ私で気持ちよくなってくださいませ…。いつもお世話いただいているお礼ですから…」 「やぁっ…ぁ…んっ」 裏葉が頭を振ってよがるのを抑えて、開いた口へ中年は自分を埋め込んだ。 柔らかく厚みのある唇と狭い口腔は、入り込んだ異物でいっぱいになった。 「ぐっうん…」 若い男も女官の腰に手を置くと、一息に刺し貫いた。 「はぁんっ」 女官の息が秘部にかかって、裏葉はのけぞる。のけぞると口の中の一物がより深く進入してくる。 舌の上を何度も男根が行き来し、ぬらぬらと唇を汚していくうちに、その感触が裏葉にとって嫌でなくなってきた。逆に、舌先が微かに痺れ、それが心地よい。 このまま、なるようになるのも良いかも知れないという考えまで頭をよぎるほどに。 「そう、そうだ…舌全体を押しつけてまろの物を包むのだ…」 言葉のままに口の中で舌の根本まで使って、男根を擦る。くびれや先端の出口も、引き抜かれるときに舌先を使って刺激する。 伏せた眼差しに長いまつげが映え、赤い唇にぬめって光る黒い肉棒が出入りする姿は、実際の感触によってもたらされるものとは別の快楽を男に与える。 「ああ…こちらも何度使われても締まりが衰えなくて、気持ちがいい…」 褒められて、女官は嬉しさに膣を強く締め上げた。 自分が素晴らしいと、裏葉の前で言われたのだ。いつもは裏葉が素晴らしいと言われるのに。 ずっと上の存在である裏葉を助け、今は自分の方が上にいるのだと思うと、より相手を感じさせ褒めて貰いたいという欲求が生まれた。 細い腰を勢いよく揺すり、時たまひねる動きをくわえると男はたちまち声を上げた。 「ううっ」 男の呻きが、女官にとって最高の褒美だった。 そして、目の前に最高の果実がある。遥か高い場所に咲く花の果実を自由に味わう許可を貰って、女官は満足だった。満たされた心と、甘い痺れが走る身体に、この時がずっと続くことを女官は祈った。 裏葉と共に、ずっとふたりで肉欲を、快楽を貪る…。そう思うだけでも、女官の膣口は締まり中がうねった。 「んっ…んんっ…はっ…」 今まで味わったことのない刺激と感情に、裏葉の頭の中は白くなりつつあった。 白くなるその向こうに何か、光が見える。そこへ行きたくて、裏葉は口の動きを早めた。 「うっ、急に激しくなったぞっ」 同じように頭の中から今の快楽を貪ること以外が消えてしまった女官は、ひくつく花びらに裏葉の絶頂が近いことを知った。 自分が裏葉を絶頂へ導くのだと思うと、女官の舌の動きは激しくなり、赤く腫れ上がった突起を唇で挟んだり吸い上げたりと、方法も色々と尽くす。 「あああっ…」 奥に穿たれた男根に、何かがせり上がってくるのを女官は感じた。同時に、自分の中で快楽の波が一気に身体を駆け抜ける瞬間を迎えるために、腰の辺りで膨らんでいくのも感じた。 「出すぞ、その口の中へっ」 中年の僧は裏葉の頭を押さえつけて、激しく腰を押しつけた。 裏葉は顎の痛みに眉を寄せながらも、一心に男根をしごくことに集中した。 「うっ…っ」 「んんっっ」 「あぅんっ…っ」 「はっ…っ」 小さな呻き声と共に、男は裏葉の口の中いっぱいに白濁液を放った。 口を男根に塞がれた裏葉の喉を液は通り、胃へと落ちていく。 呻き声にあわせて女官は裏葉の陰核を軽く噛み、その刺激に裏葉の意識は真っ白い光の中へと落ちた。 膣口が締まり、裏葉が絶頂を迎えたのを知り、女官の身体を大きな痺れが駆け抜けた。 女官のきつく締まった膣が微妙に蠢き、それによってしごかれた男根も、ようやく欲望をはきだす瞬間を迎えた。 限界を感じた男は素早く女官から自分を引き抜くと、女官の背中に向けて発射した。放たれた白い液は勢いが強く、女官の乱れた黒髪を汚しながら、裏葉の柔らかな稜線を描く腰まで届いた。 月にてらされた小さな洞穴は、快楽の深淵を極めようとする者が蠢く場所へと変貌していた。 「裏葉さま、もうすぐ社殿が見えてきますよ」 女官の声に、記憶の入口を漂っていた裏葉の意識は現へと引き戻された。 「え…ええ、そうですわね…」 「昨夜はとても良い一夜を過ごせましたね」 あどけない笑顔でこちらへ笑いかける女官へ、裏葉は一瞬どんな顔を向けて良いのかと惑った。 目を覚ましたときには、部屋の布団で横になっていた。 夢だったのだろうか。…そうも思った。 だが、とっくに乾いているはずの髪が濡れいたこと、肘に縛られた痕が残っていること、そして何よりも…・ 未だ口に残る白濁液の苦みが、昨夜のことが現実だった事を教えている。 昨夜の狂乱を覚えているのに、どういう顔をすればよいのだろうか。…その答を裏葉は知らない。 「また、買い出しの帰りはあそこへよりましょうね」 他の女官達が笑う。 「ね、裏葉さまも、ご一緒に。また仏の道を教えていただきましょうよ」 仏の道だと、僧達は言っていた。 「そう、でございますわね。また、次にも」 ようやく裏葉の顔から緊張が解け、ゆったりと笑顔が浮かぶ。 まだ澄んだ空気の中に、複数の女性の笑い声が風に乗って山へと響いた。 何も知らぬ山鳥が、高い空を横切っていった。 エンド |