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柏木家の一族・前編
てぃあさん・作

ぷろろーぐ
さわさわさわ・・・・・

葉擦れの音に、ふと耳を傾けてみる。
その中に、かさり、と枯れ葉が舞い散る音が重なる。
季節は晩秋。・・・俺は、またこの地に戻ってきた。

・・・・・そう、再び「狩り」を愉しむために。

くっくっくっくっ・・・・


げしっ!!
「いきなり気色悪い含み笑い、するんじゃねーっ」
傲岸不遜な態度で、俺を見下ろすのは、言うまでもなく梓だ。
「・・ってぇなあ。てめーこそ、いきなり蹴るんじゃねえっ、この暴力女!!」
どうやら、バカなこと考えていたのが、顔に出ていたようだ。
が、口で注意するよりも、先に手(あ、足か)が出るあたりがこいつらしい。

「まあまあ、梓お姉ちゃん。今日は折角、耕一お兄ちゃんが来てくれたんだからさ。」
とりなすように、初音ちゃんが割って入る。
「そうですよ、梓姉さん。」
と、これは楓ちゃん。咎める口調ながら、表情は笑っている。
「梓。遠いところ、わざわざ耕一さんが来てくれたというのに・・・。」
千鶴さんも、しょうがない、って感じで苦笑している。
半分、呆れているのかも知れない。

まあ、毎度毎度、こんなこと繰り返していれば仕方ないか。
「ちぇっ、なんだいなんだい、みんなしてさあ。 耕一には甘いんだから」
不て腐れながらも、梓があんまり怒っていないのは態度でわかる。
元より単純なヤツだが、それだけに気持ちの切り替えも早い。
そういうところは、短所なんだか、長所なんだか・・・。

「それにしても、良い天気だな。・・・まさに秋晴れって感じだ。」
誰ともなしに言う。すると、
「うん、そうだねっ! 今日は頑張ろうね、耕一お兄ちゃん!」
と、満面の笑顔で、初音ちゃんが元気に答えてくれた。
・・・頑張ろうね、か。 もちろんだともっ! 
そう、今日、俺は、柏木四姉妹と共に「松茸狩り」に来ていたのであった。

えぴそーど1 (柏木の血


現地に到着し、受付にて自分の分を払おうとすると、
「私たちが誘ったんですから・・・・」
と、千鶴さんがさっさと料金を払ってしまった。

・・・まあ、どうせ、俺が払うといっても、訊いちゃくれないのはいつものことだ。
ここは素直に言葉に甘えることにした。 
そのぶん、たくさん松茸を採ればいいだけの話だしな。

「こういちぃ〜、早く早く!」
「耕一お兄ちゃん、早く行こうよ!」
梓と初音ちゃんが、先を争うように駆け出して行く。
「おお〜い、松茸は逃げないって〜」
と、苦笑しつつ言ってやるが、楓ちゃんまでもが、
「・・・逃げませんけど、他の人に取られちゃいますよ?」
と楽しそうに走って行ってしまった。 みんな張り切っているなあ。 

そういや、楓ちゃんのこういう姿を見るのは、何年振りだろうか?

走り去る妹達を見ながら、傍らに立った千鶴さんが、穏やかに話掛けてきた。
「本当に、あの子たち嬉しそう・・・。耕一さんが来てくれたお蔭ですね、きっと。」
「そんな・・・。」
改まって言われると、なにやら照れくさい。
俺が来て喜んでもらえたなら、こっちとしても嬉しいかぎりだ。
「いや、俺のほうこそ・・・・」

「・・・それとも、『柏木の血』が、松茸『狩り』で目覚めたのかしら?」

・・・は?

今、なんか、物騒なことを言わなかったか・・・?

「ちょっ・・・ち、千鶴さん?」
「・・・そういえば、みかん狩り、葡萄狩り、苺狩り、りんご、メロン・・・
『狩り』って名前のつくイベントは、いつもはしゃいでいたっけ・・・・。」
「・・・・・・・・」
「あと、体験してないのは・・・・狸とか狐とか、動物関係ね・・・・。
・・・あら、耕一さん、どうかしました?」
「い、いや・・・」
 たぶん、俺の顔は引きつっていたんだろう。それを見て、千鶴さんは、
「あら、冗談ですよ、冗談。・・・本気にしました?」
とクスクス笑いだした。
「な、なーんだ、冗談か。 びっくりさせないでよ〜、ひどいなあ。」

ほんと、マジ、焦った・・・。
しかし、ほっ、と胸を撫で下ろしたのも束の間だった。
なぜなら・・・・

千鶴さんの目が笑っていなかったからだった・・・・。


えぴそーど2 (柏木初音)


少し用があるとかで、千鶴さんは受付に戻っていった。
どうやら、ここも鶴来屋と関係があるらしく、「会長」としてはいろいろ野暮用もあるのだろう。とりあえず、みんなを捜してみると、初音ちゃんを見つけた。

「あ、耕一おにいちゃん。遅かったね?」
「ああ、千鶴さんと、ちょっと話していたんだ。・・おっ、結構採れているね〜。」
えへへ、とはにかむ初音ちゃん。
「凄いなぁ、俺にも見つけ方、教えてよ。」
「うん、いいよ! えっとね、まず、松葉が黄緑色になっている赤松を見つけるの。あとは、日当たり、水はけ、風通しの良い場所を捜すと・・・・」
歩きながら説明してた初音ちゃんが足を止める。
「ほら、見つけた。」
指差す赤松の根元には、小振りながらも松茸の姿が。
「凄いな、初音ちゃんは。物知りなんだな。」
感心する俺に、
「ううん、この前読んだ『少年ヨンデー』の漫画に、ちょうど松茸の見つけ方が載ってたから・・・。」
ぺロっと小さく舌を出して、いたずらっぽく笑う初音ちゃん。
こういう仕種は、千鶴さんに似て来たな。
「それでも、覚えていて、それを活用できるんだから・・・偉いよ。」
「そ、そうかな?」
あ、照れてる、照れてる。やっぱ、可愛いなぁ。

「でも、もうそろそろお終いにしようかな? 結構採れたし。」
「え、もうやめちゃうの? まだまだ、これからじゃない。」
途端、さっきまでの満足そうな表情とは打って変わって、真剣な表情になる初音ちゃん。その変わり様に戸惑っている俺に、
「・・・耕一おにいちゃん。『狩り』には、ルールってものがあるんだよ。
『自分が食べられる量だけ獲る』それと、『どんな獲物でも、全力を尽くして獲る』 それが獲物に対する礼儀でもあるんだよ。・・・決して、遊び半分で『狩り』をしちゃいけないんだよ・・・!」

厳しい口調で、俺に詰め寄る初音ちゃん。
でも・・・これは遊び半分の松茸狩りだろ?
っつーか、狩りの目的自体が違ってないか?。
誰だよ、こんなコト教えたのは・・・。

なおも力説する初音ちゃんに、用があるから、と、その場を逃げ出した俺だった・・・・。
えぴそーど3 (柏木 楓


(・・・まいったな。)

初音ちゃんと別れた後、知らず知らず溜息が出た。
確かに、初音ちゃんが言ってることは、正しいと思う。
・・・ただし、論点が、おもいっっっっっきりズレているが。
なんだか、イヤな予感がする・・・・。

「耕一さん。」
「うわっ!!」
いきなり名前を呼ばれ、狼狽する俺の前に、
怪訝な顔をした楓ちゃんがいた。

「ど、どうしたんですか?」
「あ、いや、ゴメン。 考え事してたから、びっくりしちゃって・・。」
苦笑しながら答えると、ふふっ、と優しく笑いかけてくれた。
「・・・やっぱ、笑顔の楓ちゃんが、一番可愛いよ。」
げっ。柄にもなく、恥ずかしいこと口走ってしまった。
みるみる真っ赤になる楓ちゃんを見、(う〜ん、秋だねぇ。)・・・って、
『楓』違いやろっ と、心の中で、とりあえずノリツッコミをしてしまった。
「い、いや・・笑顔が一番似合ってるっていうか、その・・・あ、そうだ、順調に採れてる?」
あたふたと、強引だが話題変更して誤魔化す。見ると、初音ちゃん程じゃないにしろ、結構採れているみたいだ。

「あの・・・耕一さんは、松茸好きですか?」
「ん?松茸に限らず、キノコ系は好きだよ。」
千鶴さんが取ってきたもの以外ならね、と心の中で付け足しておく。
じゃ、頑張っていっぱい取りますね、と、たおやかに微笑む楓ちゃんに、
ふと、先程の初音ちゃんのことを訊いてみることにした。

「あのさ、楓ちゃん。 その・・・さっき、初音ちゃんに逢ったんだけどさ。
だれか、初音ちゃんにヘンなこと吹きこまなかった?」
「ヘンなこと・・・ですか?」
「うん。実は・・・」

俺は、言葉を慎重に選びながら説明した。
ひょっとしたら、楓ちゃんまでも、ということも充分考えられるからだ。
一通り、説明が終わると、
「それは・・・たぶん、千鶴姉さんだと思います。姉さん、そういう教育には熱心でしたから。」
「きょ、教育!? 教育なの、あれ・・・。じゃ、楓ちゃんたちも、あれを・・?」
「はい、昔教えられました。あ、今は、違うって ちゃんと判ってますよ?」
だよなぁ。いくらなんでも、いつまでも鵜呑みにしてるワケないか。
初音ちゃんは、根が素直だから信じちゃっているんだな。
納得し、安堵の溜息をつく。
だが・・・・

「・・・いくらなんでも、動物と植物を一緒にしませんよ。
狩る獲物は・・・動物だけですから。」
と、にっこり笑う楓ちゃんがそこにいた・・・・。