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柏木家の一族・後編
てぃあさん・作

えぴそーど4 (柏木 梓)

さっきから、足取りが重い。
嗚呼、空はこんなに蒼いのに、風はとっても暖かいのに、太陽はとっても明るいのに、どうして、こんなに眠いの? 睡眠、睡眠、睡眠、睡眠・・・・
だぁああああああああああっ、キテ○ツ大百科、歌ってる場合かっつーの!

・・・・・・ツカレテイルノネ・・・オレ・・・。

はぁ〜〜〜〜〜〜・・・今日,何度目かの長い溜息を吐きながら歩いていると、
いきなり背筋に冷たいものが走った。

(こ、これは・・・まさかっ!?)

滲む汗をぬぐいながら、冷気の元を辿ってみると・・・
ぽつん・・と突っ立っている梓の後姿を見つけた。
やはりコイツか。しかし、なにやってんだ? 
・・・見たところ、一つも採れてないようだが。

その時、梓が動いた。

「ちっくしょぉおおおおおおおおおおおっ!!どこにあるんだよぉおおおおおおおおっ!!見つからないじゃないかぁあああああああああっ!!!!!」

手当たり次第に木という木の根元を『鬼の力』でえぐっていく。
あ〜あ、それは赤松じゃねーぞ。・・お、おい、木をへし折るな、岩を砕くなっ。
それ以前に、「鬼の力」を使うなっ!!
でも、とばっちりはゴメンなので、隠れて傍観者になっている俺。

「きぃいいいいいいいいいいいいいっ!、全然ないじゃないかよぉおおおおおっ!」

・・いや、そんなことはないぞ? 現に、俺の足元にもあるし。

ぶち切れ、暴れまくる梓を見なかったこととし、俺はその場を離れた。


えぴそーど5 (柏木 千鶴)


「あら、耕一さん。あの子達の様子、どうでした?」

受付に戻る途中、千鶴さんと出会った。
ははは、と力無く笑う俺を見て、訝しげな顔をする。
「どうかしましたか? 随分疲れているようですけど・・・。」
お陰様でね・・・と内心でつぶやきながらも、そんなことないですよ、と作り笑顔で答える。

(・・・悪気はないんだよな、千鶴さんは。)

それは判ってる、ああ、判ってるともさ!・・・それだけに性質が悪いってことも。
もしかすると、『柏木の血』には、「天然」も入ってるのか?
千鶴さんを見ていたら、そんな気がしてきた・・・。

「それで、どうでしたか? みんなの様子は。」
「みんな、たくさん採れていましたよ。(一名除く)
千鶴さんの教えも守っていたみたいだし。」
つい、皮肉がでる。が、しかし。
「わたしの教えって・・・なんですか?」
「は? いや、千鶴さんが教えた『狩り』の掟というか、心構えというか・・・。」
「掟・・・? 心構え・・・? なんだったかしら・・・。」

おいこらまて・・・・アンタが教えたんだろがっ!!
ジト目でみている俺に気付くと、
「あ・・・ひょっとしたら、自分の食べる分だけ、とかいうやつですか?」
「そうそう、それだよっ」
半ば、ヤケになってるのが自分でも判る
「あら・・・あれは冗談のつもりだったのに。大体、今の時代にそんなこと言ってるのは、どこかの未開種族ぐらいですよ。」
冗談・・・って・・・千鶴さん・・・。おまけに、なにげなーく、非道いこと言ってるし。 これだから、「天然」ってやつは・・・。
「あの子達、健気にも私の言う事を守ってたのね・・・。なんていじらしい・・・。」

両手を胸の前で組み合わせ、一人、感動している姿を見て、俺の脳裏にひとつの言葉が浮かんだ。
それは・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・『偽善者』。



えぴろーぐ


さわさわさわ・・・・・

葉擦れの音に、ふと耳を傾けてみる。
その中に、かさり、と枯れ葉が舞い散る音が重なる。
季節は晩秋。空はどこまでも高く、蒼かった。
やわらかな日差しと共に、一陣の冷たさを含んだ風が、
疲れ果てた俺の傍らを吹きぬけていった・・・・。


「ただいま・・・。」

「あ、ここにいたんだ、耕一お兄ちゃん」

くたびれた様子の梓と、対照的に元気いっぱいな初音ちゃんが帰ってきた。
ほどなく、楓ちゃんも合流する。

「みんな、たくさん採れた?」

うん、と返事をしつつ、戦果を見せる初音ちゃん。楓ちゃんと梓もそれに続く。

「初音が6本、楓が7本、梓が3本ね。結構、採れたわね。」

・・・なんでも、お持ち帰り数量は一人3本まで、という規則があったらしい。
俺+柏木4姉妹で・・・15本か。 一本多いが、隠して持ち帰ればいいだろう。

なにはともあれ、無事(?)、松茸狩りは終了した。

帰り道、今日の感想を愉しげに話す4姉妹達。
ま、いろいろあったけど、『終わり良ければ、すべて良し』かな、今日は。
などと、呑気に考えてると・・・・・

「私、今度はホントの狩りがしたいな。 『オヤジ狩り』とかさ。」

「あ、私も。」

は、初音ちゃん、楓ちゃん・・・?

「アタシはどっちかっつーと、『山狩り』かな?」
「そうねぇ、私も梓と一緒かしら。」

ちょっと待て、あんたら・・・・。
嫌な汗が、額から流れ落ちる。
キリキリと胃が痛む。

「耕一に山に逃げてもらって、アタシらが狩る、ってのはどう?」

「耕一さんは、手強いわよ?」

い、嫌だ、嫌だ、嫌だっ! う、嘘だろ!?
動揺しまくる俺に気付き、くるうりとこっちを向く4姉妹達。

「冗談、冗談。」

・・・・・くすくす笑っていたが、やはり、『目』は笑っていなかった・・・・



         終わり

  余談

柏木家に到着後、梓の入念なるボディチェックの結果・・・・。

「ちょっとっ、千鶴姉っ!!なんだよ、これはっ」

どさどさどさ・・・梓が、千鶴さんが隠し持っていたキノコを机にぶちまける。
ああ、なんて色鮮やかな・・・・・・色鮮やかって・・?

「なんですか・・・これ。」

「えっとぉ・・そのぉ・・・・綺麗だったから・・・。」

上目遣いで、廻りを伺う千鶴さん。

初音ちゃんは、早速、図鑑を取りに行く。

「千鶴姉さん、いつの間に・・・?」

楓ちゃんも、ジト目で見る。

「あのっあのっ、それがね・・・」

「・・・この毒々しいキノコ、どうするつもりだったんだい?」

梓が、ずいっと詰め寄る。

「ほ、ほらっ、いかにも美味しそうな色合いでしょ?だから・・・」

『・・・・だから?』

見事に、千鶴さん以外の全員の声がハモる。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・いじめちゃ、いや〜ん。」


全員一致(千鶴さん除く)で、焼却決定。

こうして、危機は未然に回避されたのであった・・・・。


          おしまい。