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エピロ−グ 『Parlorさゆりん順風満帆!』 |
急いで押したタイムレコーダーが、何とか遅刻を免れる時間を印字したことを確かめて、俺は安堵の溜息を付いた。折角朝からバイトに入れる日曜に遅刻はしたくない。 昨夜遅くまでレポートを書いていたせいだ。 制服を着終わってからタイムレコーダーを押すシステムも、遅刻ギリギリになる原因の一つだ。着流しは何回着ても帯を締めるのに手間がかかる。 「おはようございます」 夜番でも朝番でもバイトに入るときはそう言うなんて、自分でやっていて不自然に思うが、これも決まり事らしい。 「おはようございます、祐一さん。待っていましたよーっ」 佐祐理さんの元気な声にその隣を見ると…。 「おう、遅刻ギリギリだな」 「もう少し早く来た方がいいですよ、祐一さん」 着流し姿の北川、おまけに袴姿の秋子さんが並んでいた。 「北川、どうして…。秋子さんまで…」 「ここのバイトは女の子にもてるそうじゃないか。ずるいぞ」 いや、女性は女性でも、すでに既婚の女性だが。 「先日来て、気に入ってしまって。ここなら安心して働けそうだったから」 たしかに育児に手はかからなくなっただろうけど、何もこの店で働かなくても。 「佐祐理さん、みんな雇うんですか?」 「あははーっ、そうなってくれたら佐祐理は大助かりです」 佐祐理さんは雇う気満々で笑う。 「…祐一」 側に来た舞が、俺の方を見上げる。 「…佐祐理を泣かせたら…」 「大丈夫だよ」 艶やかな黒髪の上に、手を軽く乗せると、髪の筋に沿って撫でた。 「大好きな佐祐理さんを泣かせたりしないさ」 小さな俺の声は、北川と秋子さんには届かなかったが、佐祐理さんの耳には届いたらしい。白い肌が桜色に染まっていく。 「あははーっ、開店時間ですよーっ」 照れたように笑いながら、佐祐理さんは入口に並んだ。きっと外は今日も列ができているのだろう、ざわめきが聞こえる。 俺も舞も北川達も、倣って一列に並ぶ。 自働ドアが開き、朝の光が射し込む。それにあわせて、俺達は今日も声を揃えて同じ言葉をうたうように唱える。 『いらっしゃいませ、Parlorさゆりんへようこそ!』 今の俺達にとってそれは、夢を叶える魔法の呪文なのだから。 「Parlorさゆりんへようこそ!」 END |