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虹を見る小径
 踝まで届くかどうかの、足をすっぽり隠すヒラヒラのロングスカート。底と踵が高めの靴は、飾りが少ないものを選んだ。
「お、行こうか」
 先週から何を着るかの計画を立てて、いつもとは違うリボンを付けた三つ編みにも、彼は何も言わない。
 何も言わないけれど、口元がいつもより柔らかいように見える。

 空は白い雲が半分以上を占めているけれど、風が気持ちよく雨も当分降りそうにない。
 デート日和、と言っても良いだろう。

 私たちは、もう一つの待ち合わせ場所へと向かう。
 もう一組の、カップルと合流するために。

 私たちが、詩子抜きで出掛ける機会が増えたことは、今のところは詩子に内緒にしている。
 恋人、と呼ぶにはまだぎこちない私たちを詩子に見せるのは、なんだか気恥ずかしいから。

「茜、待ち合わせまでどれくらいあるんだ?」
 約束の時間より早くついたその場所には、まだ相手の姿は見えない。
 時間までは、あと十五分。噴水の側に白い鳩が数羽集まっている。
「もう少しあります」
「そうか、できれば早く移動できると良いんだけどな」
「そんなに急がなくても大丈夫です」
 誰も、何も、どこへも消えたりしない。もう、どこへも行かない。
「いや、今回も詩子には内緒だろう? 鉢合わせたら、気まずいかなって」

「呼んだ?」
「うわぁっ!」

 気配を感じさせず、突然に現れる。それはいつものことで私は慣れたけれど、久しぶりだからか、彼は驚きの声を上げた。

「なんで居るんだよ、こんな所に」
「なんとなくよ」
「なんとなくで、家から離れた公園を彷徨いているのか」
「良いじゃない、あんただって茜だって、家から離れた公園を彷徨いているんだから」
 こちらが形勢不利になっているところへ、長森さん達が走ってきた。
「ごめん、里村さん」
「ぐわっ、柚木いつの間に先回りしたっ」
 息を切らせながらも長森さんと折原君が交互にそれぞれ話す。
「人聞きが悪いわね、あたしの方が歩くのが速かっただけじゃない」
「途中で柚木さんと会って、話をしていたんだけど…」
「あのスピードで歩くだと? しかも途中で妨害工作していったじゃないか」
 しっかりと詩子も会話に入り込む。お陰で、随分と話が聞き難い。
 私は平気だけれど、たぶんこれだと…。

「判るように話せ〜っ!」

 周囲の視線、ただの通行人も含めて、視線が私の隣に集まった。

 要約すると、こちらへ向かっていた長森さん達を偶然見つけた詩子が、その話を聞いて一緒に来てしまったと言うことらしい。
 一緒、と言うには、詩子の方が到着がかなり早かったけれど、その理由は長くなるので割愛する。
「なんだか、幼なじみが増えた気分だね、茜」
「そう感じるのは、詩子だけです」
 折角のダブルデートが、仲良しグループの遊びになってしまっていた。
「冷たいよ、茜」
「熱い里村なんて、想像できないぞ」
 とりあえず、折原君と詩子がいいコンビで漫才をしてくれている。
 それだけを見ると確かに、幼なじみが増えたような錯覚を覚える。
「もしかして、こんなだったのか? 俺がいない間って」
 こっそりとされた耳打ちに、ゆっくり笑顔を返して、私は答えた。
「あなたと一緒だから、こんななんです。あなたは嫌い? この空気」
 私の笑顔に応えるように。彼もゆっくりと微笑んだ。

「いや、好きだよ」

「あたしに声かけないなんて、ずるいよ」
「ずるくない。絶対にずるくない」
「ほら、浩平、言い過ぎだよっ」
 振り向けば、以前からそうだったかのような詩子と折原君達。

 それは、幸せの光景。

 あいつの笑顔が、ここにある。
 それも、幸せの光景。
 雨上がりの空に架かる虹のように、いつも一緒に。

 それだけで幸せになれる今を、好きな人と歩く。